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7.睡眠の性差
 性ホルモンとその分泌パターンに性差があり,それを管理する脳の性中枢は睡眠中枢と隣接している.思春期以降で睡眠の性差はかなりはっきりとした形で現れる.
 女性には思春期から更年期まで月経周期や妊娠,哺乳の時期がある.最近の研究では成人女性の40%が月経に関連して睡眠に変動があると答えており,その90%以上の人が月経前(黄体期)で睡眠時間が延び,日中の眠気も強まること,この過眠傾向は月経期にも引き続いて認められると報告している.このような結果から,今日では,月経随伴睡眠障害は,月経随伴「過眠」障害と考えられるようになってきた.女性の社会参加がますます増加してゆく現在,周期的におこる「眠気」は労働産業衛生上の大きな課題であり,この領域の研究に本格的な取り組みがなされることが期待されている.
 妊娠と哺乳の期間では,黄体ホルモンの分泌が著しい妊娠初期では眠気の亢進がみられる.逆に,妊娠後期から哺乳期では不眠傾向が強まる.これは心理的な理由よりもホルモン分泌のパターンが変化するためと考えられている.哺乳期間中は乳児の小刻みな睡眠・覚醒リズムの影響で,母親の眠りは2〜3時間ごとに分断される.同年代の男性に比べ,睡眠内容の変動が激しいが,睡眠障害を訴える割合はずっと低い.妊娠,出産,育児,という女性特有の次世代再生産の機能が不眠耐性を高め,母体を手厚く保護していることが分かる.このような母体保護機構の活動に終止符が打たれる更年期以降では,堰を切ったように睡眠障害が多発する.裏を返せば,不眠耐性が母体保護機構の中心的役割を果たしていたことを示している.
 例えば,中高年女性の睡眠不満の大部分は,(1)入眠困難,(2)熟眠困難,(3)中途覚醒など睡眠維持困難,(4)早朝覚醒と(5)再入眠困難である.ところが,実際に睡眠ポリグラムで比較してみると,同じ年齢では男性の方がはるかに睡眠内容は劣っている.60才以降では男女とも徐波睡眠(SWS)の割合は10%以下になるが,男性では65才を過ぎるとその割合は数%以下となる.ところが,女性は70才をすぎても徐波睡眠(SWS)の割合はそれ程下がらない.中途覚醒の回数は20才代からどの年代で比べても,男性の方が多い.つまり,男性老人は同年齢の女性老人に比べ徐波睡眠の割合が低く,度々の中途覚醒で睡眠が中断され,睡眠経過の歪みが著しい.これは,男性の方が,呼吸機能が弱いためであるといわれている.睡眠時無呼吸症は中高年男性に多い.睡眠中の呼吸障害と考えられる新生児突然死症候群も男児に多い.また前立腺肥大なども,夜間の頻尿がしばしば睡眠を中断する原因となっている.ところが,睡眠不満を調べると,これは女性の方が圧倒的に高く,特に50才代以降の中高年女性でこのことは著しい.更年期以降では,不眠の悩みを訴え,睡眠薬に頼ったりする女性が急に増加する.閉経後になぜこのように女性の不眠耐性が下がってしまうのか,その詳しい理由はまだ分かっていない.睡眠の性差は中高年,とりわけ高齢者で著しい.男性からは女性は良く眠っているように見えるのに不満が絶えない.一方,女性は不眠で苦しんでいるのに,良く眠っていると言われては,どうしても納得がいかない.高齢化社会では睡眠の性差は一層深刻な問題となり,治療による解決とともに性差の正しい理解も重要である.

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