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11.睡眠中の行動
1)ノンレム睡眠時の行動:歯ぎしりは段階2に最も多く起こる.いびきは段階2で最も多く、段階3,4やレム睡眠で弱まるか止まる.児童の夜驚症で最も強い恐怖感を伴って目覚めるのは段階4であり,その70%が入眠後の最初の段階4に集中している.夢中遊行も段階3と4で起き,短いもので2〜3分,長い場合は30分続く.歩きまわっている最中も,脳波はデルタ波が出現し続けている.夜驚や夢中遊行の背後には何らかの心理的体験があると期待されているが,目覚めた後自分の行動の記憶もなく,行動を裏づける夢体験の報告もない.夜尿もほとんどが第1周期の段階3と4で起きる.夜尿を合理化するような夢は,むしろ排尿後のレム睡眠で生成されていると考えられている.尿が温かい時には刺激が夢に取りこまれて火事場などの夢になり,冷えてしまった頃にレム睡眠が起こった時は,深海をさまよう夢になったりするであろうというものである.寝言の大半は段階2でおこるが,起こしても寝言と対応した夢体験の報告はほとんどなく,あっても断片的である.寝言の内容は日常的な出来事に関するものが多く,発音は明瞭であるが,断片的であることが多い.

2)レム睡眠時の行動:悪夢のほとんどはレム睡眠中の情動夢で,恐怖のあまり目を覚ますこともある.覚醒後に夢内容を報告することが出来る.寝言はレム睡眠でもおこる.ノンレム睡眠よりも感情がこもっており,夢内容とよく一致している.従って,レム睡眠の寝言は夢の随伴現象とみなすことが出来る.
金縛り体験は「入眠時幻覚を伴う睡眠麻痺」とも呼ばれ,(1)動けない,(2)しゃべれない,(3)不安や恐怖感を伴う,(4)胸の上になにかが乗っている感じ,(5)誰かがいるような気配などが体験される.金縛りの発現率は男性で約40%,女性で50%,初発年齢のピークは女性が15才,男性が17才で性差が認められている.これは,ストレスや生活リズムの乱れを背景として,入眠直後にレム睡眠が起こってしまうことが原因でおこる現象である.普通はノンレム睡眠の後に続いてレム睡眠がおこるのであるが,入眠後10分たらずでおこるレム睡眠は入眠期レム睡眠(sleep onset REM : SOREMP)と呼ばれ,入眠時幻覚と麻痺を引きおこしやすい.同じ入眠期レム睡眠でも金縛り体験のない時に比べると,金縛り体験は比較的高い意識水準のレム睡眠でおこっているのが確かめられている.レム睡眠では,骨格筋の緊張が著しく低下するので,体を動かそうとしても動かない.レム睡眠特有の鮮やかで情動的な夢も出現しやすい.覚醒水準が高いと,自分は目覚めていると感じ,この覚醒感が脱力を麻痺,夢を幻覚として印象づけ,現実性を伴った恐怖体験を形成すると考えられている.[註5]



参考書

堀 忠雄・斉藤 勇(編)脳生理心理学重要研究集1 意識と行動 誠信書房 1992
堀 忠雄・斉藤 勇(編)脳生理心理学重要研究集2 情報処理と行動 誠信書房 1995
堀 忠雄(編) 不眠 同朋舎出版 1988
井上昌次郎 脳と睡眠 人はなぜ眠るか 共立出版 1989
石原 務 睡眠と夢 朱鷺書房 1991
Jouvet,M. Le Sommeil et le Reve. Editions Odile Jacob, Paris, 1992[ミッシェル・ジュベ.睡眠と夢 紀伊国屋書店 1997]
Lavie,P The enchanted world of sleep. Yale University Press, New Haven,1996[ペレツ・ラヴィー. 20章でさぐる睡眠の不思議. 朝日新聞社、1998]
宮田 洋(監)新生理心理学 第2巻 生理心理学の応用分野 北大路書房 1997
日本睡眠学会(編) 睡眠学ハンドブック 朝倉書店 1994
鳥居鎮夫 夢を見る脳 脳生理学からのアプローチ 中公新書 1987
鳥居鎮夫・川村 浩(編) 新生理学大系 13巻 生体リズムの生理学 医学書院 1987

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