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1.睡眠の起源
 睡眠は脳を発達させた動物たちの重要な生理機能であり,生存のために欠くことのできない行動である。しかし,睡眠はすべての生物に一様に備わっているわけではない。地球上の全生物は,バイオスフェアという地表の限られた圏内に住んでいる。ここは昼夜のリズムが規則的に交代する環境である。この日周変化に同調し,さらにこの変化を予測しながら,活動と休息のリズムを繰り返すことが生物にとって最も基本的な生存戦略であった。だから,すべての生物は体内に「生物時計(概日時計・生体時計)」を構築して,環境サイクルに同調する行動を示している。
 睡眠という現象は,このような全生物に普遍的に共有される休息と活動の概日リズム(サーカディアン・リズム)を背景にしているが,このリズムそのものではない。動物たちは進化の過程で,迅速な情報処理と機能調節のための専用器官として脳を構築した。神経細胞のネットワークからなる脳は,身体の前部に配置され,最先端が膨れて機能を集中させ統合させる方向に進化してきた。その進化に対応して,"脳のための管理技術"として登場したのが睡眠である。睡眠を統御するのもまた脳の仕事になった。中枢としての脳が休息すれば支配下にある末梢の組織や器官はその影響を受ける。従って,睡眠現象には個体レベルでそれとわかる行動が表出される。行動上の変化は,いわば睡眠の症状であり,末端での変化にすぎない。