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2.睡眠の役割
 古くから「睡眠とはなにか」と問われているが,いまだに満足な答えはない。それは「生命とはなにか」という問題に満足な答えがないのと同じである。睡眠が不足すると,私たちはいらいらしたり,眠くなったり,元気がなくなったりして,生活の質が損なわれる。また,場合によっては,生命維持に重大な支障を生じることさえある。睡眠とはこのような状態を生じさせないための機能であり,そのために必要なのであろう。
 現代の脳科学が明らかにしたところによれば,睡眠とは能動的な,そして重要な生理機能が脳によって脳のために営まれる状態である。睡眠は,生物界に広くみられる活動と休息のリズム現象を基盤に発達してきた。そして,脳の進化とともに,大きく発達した大脳をうまく休ませる機能が拡張されてきた。
 それゆえ,睡眠は単なる活動停止の時間ではなくて,高度の生理機能に支えられた適応行動であり,生体防御技術でもある。とりわけ,発達した大脳をもつ私たち人間にとっては,睡眠の適否が質の高い生活を左右することになる。「よりよく生きる」ことは,とりもなおさず,「よりよく眠る」ことなのである。
 睡眠がうまくとれないと,大脳の情報処理能力に悪い影響が出る。睡眠不足のとき私たちが感じる不愉快な気分や意欲のなさは,身体ではなくて大脳そのものの機能が低下していて,大脳が休息を要求していることを意味している。従って,睡眠を実行するために,そして,睡眠のあとうまく目覚めるために,高等動物は進化の過程でさまざまな方式を開発してきた。こうして,高等動物の眠りには,浅いものから深いものまで,いろいろな段階の睡眠が分化してきた。その結果,ヒトの睡眠は,大脳のためにあるといってもよいくらいに特殊化している。