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3.睡眠研究の2つの現代的意義―脳科学の面と睡眠障害対策の面
 現代はかつてなかったほど,睡眠に対する関心が高くなった。その大きな理由が2つある。一つは,脳科学の進歩によって,睡眠の重要性がしだいに認識されてきたことである。もう一つは,現代社会が睡眠を慢性的に犠牲にする活動様式になって,さまざまな悪影響を生じたことである。
 脳科学の面から見るならば,睡眠は脳をもつ生命体に特有の生理機能であり,生存戦略である。脳は,コンピューターのようにいつも同じレベルの活動をつづけることはできない。意識水準はたえずゆらいでいる。だから,質のよい睡眠があってはじめて,脳は高次の情報処理能力を発揮できるのである。従って,発達した大脳をもつ高等動物ほど睡眠の役割は大きい。さらに,精神(心)や意識,学習や記憶の問題を探究するにも,睡眠の役割を度外視するわけにはいかない。そればかりか,睡眠の機能についてはまだよくわかっていないことが多い。睡眠研究はきわめて領域が広く,研究の対象も方法も多様であり学際的である。知的探究の対象として,睡眠研究ほど将来性に富んでいる脳科学の領域はほかにない,とさえ言えるのである。
 睡眠研究の推進はまた,社会的な要請でもある。現代の高度技術化社会にあって,私たちは生産活動や経済利益を重視するあまり,睡眠を軽視し犠牲にしてきた。そこから大きな恩恵を受けているが,同時に発生したさまざまな歪みのために,深刻な睡眠障害が世界的に増加しつつある。睡眠軽視に起因する大事故も各地で頻発した。これは,睡眠を軽視し犠牲にしたところからくる被害である。
 21世紀の比較的早い時期に,癌や循環器疾患など現代を代表する難病の多くが,医学および医療技術によって克服されるだろうという予測がある。しかし,さまざまの睡眠障害を含む心の病気については,今後さらに増加するうえに,決定的な治療は望めない,とする悲観的な見通ししか得られていない。不眠に代表される睡眠障害の対策は,これからもますます比重を高めていくことになるであろう。
 こうした事実を踏まえ,睡眠研究の科学的な成果にもとづいて,健康を維持するにはどのような生活パターンを構築すればよいか,どのような睡眠障害対策を実施すればよいか,という問題が年とともに重みを増している。高度技術を生産活動のためばかりではなく,快適な睡眠の確保のためにも積極的に活用することが必要となった。