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4.解析法からみた2種類の睡眠―行動睡眠と脳波睡眠
 睡眠はみかけでそれとわかる。まず,まぶたが閉じられることが,最も基本的な変化として観察できる。ついで,頚筋が弛むので,頭がうなだれたり左右前後に揺れだしたりし始める。寝入りばなの浅い眠りでは,全身の筋肉がすっかり弛緩することはないから,立ったり座ったりしていてもうとうとできるが,しだいに深い眠りに入ると,身体を支えることがむずかしくなってくる。
 こうして,ヒトも動物も独特の眠りの姿勢(寝相)をとって寝ることになる。寝相にはいろいろあるが,ヒトはふつう横になって眠る。基準化された行動から定義された睡眠を行動睡眠と呼んでいる。下等動物では,行動睡眠から現象を解析するほかない。
 たとえば,多くの魚ははっきりとした昼行性または夜行性の活動パターンを示し,休息期には活動を停止する。砂に潜る,岩に寄りかかる,石や藻など物陰に隠れる,水面に浮かぶ,ゆっくり泳ぐなどの行動からみて,あきらかに眠っているようにみえる。しかし,魚類,両生類,爬虫類など外温性脊椎動物の「眠り」は,内温性の鳥類や哺乳類の真睡眠とはかなり異なり,脳波の変化で睡眠と覚醒を厳密に判別できない(表1)。大脳は相対的に非常に小さく,意識水準の切り替えを脳波に反映するほどの正確な変化を示さないからである。


表1 睡眠の分化[井上昌次郎.いろいろな眠り.LiSA 増刊(眠りのバイオロジー):4-11, 1998]

脊椎動物
無脊椎動物その他の生物
内温性(恒温性)外温性(変温性)
休息−活動
の概日リズム
行動睡眠
終脳睡眠
脳波睡眠

 * ノンレム睡眠+レム睡眠(真睡眠).

 しかし,行動睡眠からでは,睡眠と覚醒の正確な区別はできない。だから,高等動物で厳密な検査をするときは,脳が発生させる電気変化(脳波)をもとにして判断する。これを脳波睡眠と呼んでいる。脳波にはさまざまな周波数帯域の波―ベータ波,アルファ波,シグマ波,シータ波,デルタ波など―がある。これらの波の成分をもとに,睡眠か覚醒かを決める。そして,脳波睡眠にレム睡眠ノンレム睡眠の2種類があることが,脳波パターンからわかるのである(5〜6章参照)。