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6.高等動物の2種類の睡眠―ノンレム睡眠とレム睡眠
 大脳の発達が著しく恒温性を確立している高等脊椎動物では,レム睡眠ノンレム睡眠が分化し,それぞれが異なる役割を分担している(5章参照)。これら2種類の眠りがたくみに組み合わされ,それぞれが異なる役割を分担しながら,睡眠状態は時間的にも内容的にもきわめて動的に構成されている。
 レム睡眠とは,急速眼球運動(rapid eye movement の頭文字REMからレム)を伴う睡眠という意味である。急速眼球運動とは,閉じたまぶたの下で眼球がきょろきょろと動くことを指す。体はぐったりしているのに,脳は覚醒に近い状態になっていて夢を見ていることが多い眠りである。
 ノンレム睡眠とは,レム睡眠でない眠りという意味で,いわゆる安らかな眠りである。ヒトでは,浅いまどろみの状態から,ぐっすり熟睡している状態まで,脳波をもとに4段階に分けることができる。
 つまり,深いノンレム睡眠はいわば「ぐっすり眠る」状態である。これに対して,レム睡眠はいわば「ぐったり眠る」状態である。
 健康な成人では,これら2種類の眠りが約1.5時間の単位をつくり,いくつかの単位がまとまって,一夜の睡眠を構成している(図1)。最初の2単位つまり寝入りばなの約3時間のあいだに,たいへん質のよいたいせつな眠り(深いノンレム睡眠=熟睡)が,まとめて出現する。以後は,浅いノンレム睡眠とレム睡眠の組み合わせとなる。そして,各単位の終了時ごとに目覚めやすくなるから,寝入った時刻からおよそ4.5時間,6時間,7.5時間後に起きるようにすれば,目覚めの気分もよいことであろう。
 ノンレム睡眠は大脳を鎮静化するための眠り,レム睡眠は大脳を活性化するための眠りであるゆえに,両者の性質は対比的であり,相互補完的である(図2〜3)。だから,俗にいう「ノンレム睡眠はは脳の眠り」,そして「レム睡眠は体の眠り」という表現は,単純明快ではあるが正しくない。修正されなければならない重大な誤解である。

図1 ヒトの睡眠の時間経過図
[アレクサンダー・A・ボルベイ.睡眠の謎,どうぶつ社,1985 を改変]
図2 脳活動の指標としてのブドウ糖消費量とアセチルコリン(興奮性神経伝達物質)放出量の状態ごとの比較
図3 2種類の睡眠の相補関係