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I.睡眠異常



1.精神生理性不眠症 (Psychophysiological insomnia)
2.原発性過眠症  (Primary hypersomnia)
3.ナルコレプシー  (Narcolepsy)
4.睡眠時無呼吸症  (Sleep apnea syndrome)
5.反復性過眠症  (Recurrent hypersomnia)
6.特発性過眠症  (Idiopathic hypersomnia)
7.環境条件に起因する睡眠障害


A.不眠症の定義
夜間中々入眠出来ず寝つくのに普段より2時間以上かかる入眠障害、一旦寝ついても夜中に目が醒め易く2回以上目が醒める中間覚醒、朝起きたときにぐっすり眠った感じの得られない熟眠障害、朝普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまう早朝覚醒などの訴えのどれかがあること。 そしてこの様な不眠の訴えがしばしば見られ(週2回以上)、かつ少なくとも1ヵ月間は持続すること。不眠のため自らが苦痛を感じるか、社会生活または職業的機能が妨げられること。などの全てを満たすことが必要です。 
なお精神的なストレスや身体的苦痛のため一時的に夜間良く眠れない状態は、生理学的反応としての不眠ではありますが不眠症とは言いません。

B.過眠症の定義
日中に過剰な眠気または実際に眠り込むことが毎日の様に繰り返して見られる状態で、少なくとも1ケ月間は持続し、そのため社会生活または職業的機能が妨げられ、あるいは自らが苦痛であると感じるものです。 ただし一回の持続期間が1ヵ月より短くても繰り返して過眠期がみられるものも含みます。


1.精神生理性不眠症 (Psychophysiological insomnia)
何らかのきっかけにより、夜眠ろうとしても寝つけず、それ以来また眠れないのではないかという不安感と緊張が著しく強まり、眠ろうと焦り過ぎるため、かえって興奮して寝つきが悪くなることが繰り返される場合です。 筋肉の緊張、血管収縮増加など身体化された緊張も増大します。 さらに寝室に入るとか、歯磨き、消灯など睡眠に関連する行動に対しても条件づけられた覚醒が形成されます。 寝室では寝つけないが、就寝時のきまりから離れた場面、例えば居間のソファに座ってテレビをみたり、読書したりしているときには容易に眠り込んだり、睡眠検査室の中などではかえって良く眠れることがあります。 このような条件化された外的要因は主観的には体験されないため、患者は不眠の理由を理解出来ないことが多いものです。 夜良く眠りたいと患者が強く意識すればするほど、逆にこの意識自体が睡眠を妨げます。 患者は自らの睡眠問題だけに囚われて頭が一杯であり、不眠の直接のきっかけとなった外因がなくなっても不眠は徐々に発展し、"自己増殖"します。 
治療は不眠に対する不安・緊張感を取り除くため、精神療法、睡眠習慣の見直しを指導します。薬物療法としては夕方から抗不安剤を投与し、さらに就寝前に睡眠誘導剤を追加投与します。


2.原発性過眠症  Primary hypersomnia
過眠症の診断基準を満たすが情動脱力発作は認められないものです。真性過眠症候群(essential hypersomnia syndrome)もほぼ同じ概念です。 既知の睡眠障害、器質的原因によるものは除外されます。睡眠時無呼吸症の臨床的所見(夜間の呼吸停止、典型的な間欠的大いびきなど)が認められる場合には、睡眠時無呼吸症との合併である可能性もあります。治療としては夜間睡眠の異常があれば規則正しい睡眠習慣に戻し、日中残る過眠に対しては覚醒効果をもつ精神賦活剤を朝と昼に投与します。必要以上に大量を飲みすぎると精神不安定になることがあるので必ず医師の指導を守る必要があります。


3.ナルコレプシー  (Narcolepsy)
1)症状
ナルコレプシーのもっとも基本的な症状は日中反復する居眠り(daytime sleep episodes)がほとんど毎日、何年間にもわたって続くことです。 通常10〜20分位眠ると目が覚めてさっぱりしますが、2〜3時間もすると再び眠気が襲ってきます。 このとき意識的に体を動かしたりすることによりある程度眠気を抑える事は可能ですが、毎日続く眠気に打ち克つことは困難です。このほか普通の人であれば緊張してまず居眠りなどしない場面、例えば試験中とか商談中等でも急に強い眠気が起り数分間程度眠り込んでしまうことがあり、これを睡眠発作(sleep attacks)と言います。
次に大切な基本症状は情動脱力発作 (cataplexy)です。 大笑いしたり、得意になったり、興奮して怒ったりするなど、主に強い陽性感情の動きをきっかけにして、全身あるいは膝、腰、頚、顎、頬、眼瞼などの姿勢筋の力が両側性に突然脱けてしまう発作です。通常脱力は瞬間的ですが、数分間にわたり床に崩折れることもあります。 この間意識は清明に保たれ、周囲の状況はよく記憶されて、呼吸困難は起りません。てんかんの発作とは全く別のものです。 時には数分から30分間位も脱力状態が持続することがあり、脱力重積状態(status cataplecticus)と呼ばれています。

また入眠時幻覚と睡眠麻痺もしばしば見られますが必発症状ではありません。
入眠時幻覚(hypnagogic hallucinations)は、就床後間もなく、自覚的には半分目が覚めているにもかかわらず、生々しい現実感を伴った鮮明な夢をみることで、睡眠開始時レム睡眠期に一致して起こります。怪しい人間や動物、得体の知れない怪物などが部屋の中に入り込んできて、襲いかかってきたりする幻視、幻触、身体運動感覚などを主とする体験で、強い現実感と恐怖感を伴います。稀には入眠時幻覚が発展して日中にも侵入し、夢幻様体験から幻覚妄想状態を呈することがあります。
睡眠麻痺(sleep paralysis)は入眠時、通常入眠時幻覚による不安・幻覚体験に一致して、全身の脱力状態が起ることをいいます。 患者は恐怖から助けを求めて起上がろうとしますが、全身が金縛り状態となって身動き出来ず、声もほとんど出すことが出来ません。
さらにナルコレプシーにしばしば見られる症状としては、夜間熟眠困難(disrupted
nocturnal sleep)、行動の記憶が短時間失われる自動症(automatic behaviors)、精神面の弛緩(decreased psychic tension)などがあります。また肥満、頭痛、多汗、糖尿病などが合併することがしばしばあります。

2)診断基準
  A.日中反復する居眠りがほとんど毎日、3ヵ月以上持続する。
  B.強い感情の動き(大笑い、得意、驚き、怒りなど)により誘発される姿勢筋の両側性の突然の緊張喪失発作(情動脱力発作)の存在(Aと共存するものであれば、既往にあったことが臨床的に確認されるだけでよい)。
の両方を満たすことが必要です。単に眠気だけではナルコレプシーとは確定診断出来ません。

3)検査所見
日中の普通の脳波検査所見は持続的な浅い眠りが特徴的で、開眼によりびまん性のα波活動がおこることがあり、逆説的アルファ抑制反応と呼ばれています。 睡眠ポリグラフィーでは睡眠潜時の短縮と睡眠開始時レム睡眠期(Sleep-onset REM period, SOREMP)が出現することが特徴的です。  一日4〜6回にわたり入眠潜時を測定する睡眠潜時反復検査
(Multiple Sleep Latency Test,MSLT)では睡眠潜時の平均が10分以下で、レム潜時が10分以下の場合が2回以上認められることがしばしば見られます。 神経内分泌学的所見として正常者では夜間入眠後にみられる著しい成長ホルモンの分泌がナルコレプシー患者ではほとんど認められません。

4)神経薬理学的所見
日中の居眠りに対しては覚醒効果をもつ精神賦活剤が著効を示します。抗てんかん剤は無効です。 情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺に対しては三環系抗うつ剤が著効を示します。

5)疫学
ナルコレプシーの居眠りの発症は10歳台に多く、とくに14〜16歳に著しいピークを示します。情動脱力発作が居眠りより早く起こることは稀です。 発症頻度の性差はありませんが、受診頻度は男の方が多くみられます。 一般人口中のナルコレプシーの有病率は正確には分っていませんが、日本では0.16%から0.18%という推定値があります。 ナルコレプシーは低い浸透率をもつ多因子型の遺伝様式を示します。

6)経過と予後
ナルコレプシーの諸症状は長期経過する中に少しずつ改善する傾向があります。
情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺の順に消失する頻度が高くなります。 日中の眠気は時の経過とともにやや改善する傾向はあるものの、長年月持続します。

7)HLA(ヒト主要組織適合抗原Human Leukocyte Antigen)との相関
日本人ナルコレプシー患者においては白血球の血清学的型判定でHLA-DR2とDQ1がほぼ全例陽性です。これをDNAレベルで解析すると第6染色体短腕にあるDRB1*1501とDQB1*0602という対立遺伝子がほぼ全症例で陽性であることが分かりました。 このHLA遺伝子は発症に必要な素因であるものの、十分条件とは言えません。ナルコレプシーの一卵性双生児13組のうち11組までが不一致で相手はナルコレプシーを発症していません。またHLA- DRB1*1501とDQB1*0602自体は正常者の約14%でも陽性です。 なおナルコレプシー患者の子供でもHLA-DR2/DRB1*1501, DQ1/DQB1*0602が陰性の場合には、将来ナルコレプシーを発症する可能性はほとんどないと考えることが出来ましょう。
欧米諸国においては、稀ながらDR2陰性のナルコレプシー患者が報告され、とくに黒人についてDR2陰性の患者の報告例が多いようです。このことはナルコレプシーの罹病性遺伝子がHLA領域ではなくてそのごく近傍にあるという可能性や、HLA遺伝子は他の領域にある罹病性遺伝子を活性化する働きをもっているという可能性も考えられましょう。

8)治療
規則正しい生活により夜間の睡眠を十分にとることがまず大切です。日中残る眠気に対しては覚醒効果をもつ精神賦活剤を朝と昼に投与します。夜間の睡眠が不十分なまま精神賦活剤を必要以上に服用すると精神不安定を起こすことがありますので、必ず専門の医師の指示に従って服用して下さい。 社会生活上の問題としては眠気のための失敗が繰り返し起り、青年期には勉学上の困難が通常起こります。 車の運転や危険な作業に際しての事故も起こりやすいので、危険を伴う職業は避け、なるべく体を動かし、自分の判断で仕事の時間配分の出来る職業が適応しやすいでしょう。 患者は挫折を繰り返し、はりのない、消極的で諦めやすい性格変化を来すことが多く、治療からも脱落しやすいことが問題です。早期発見と早期治療および治療の長期継続が大切なのですが、眠りやすいことは怠け者であると決め込んだり、近所の手前が悪いからと病院へ行くのをためらう場合も大変多いのが残念な実状です。ナルコレプシー患者により1957年以来自主的に運営され、お互いの親睦と助け合い、治療環境の促進を目指すなるこ会(http://www2s.biglobe.ne.jp/~narukohp/)があります。


4.睡眠時無呼吸症  (Sleep apnea syndrome)
夜間睡眠中に反復して呼吸停止、あるいは呼吸低下の起るもので、夜間睡眠が慢性的に妨げられるため、朝起床時に爽快感が乏しく、日中強い眠気や全身倦怠感が毎日のように起こり、社会生活が妨げられる病気です。 睡眠ポリグラフィーでは、(1)睡眠潜時が短縮し、 (2)睡眠時に10秒以上(通常20〜50秒)持続する呼吸停止または浅い呼吸のエピソードが一時間当り5回以上反復し、無呼吸に伴って覚醒反応が頻回に起こります。(3)無呼吸に伴い動脈血酸素飽和度の低下が反復して生じます。 このため頭痛、口渇、右心不全、高血圧などが合併しやすくなります。 中年の肥満男性に多く、年齢が進むにつれて増加します。亜型分類として肥満や扁桃腺肥大などによる上気道狭窄により胸郭の呼吸運動はあるものの鼻腔からの換気が停止し、覚醒反応により苦悶性の激しいいびきが繰り返す閉塞型と、胸郭の呼吸運動も起らないで呼吸停止が反復する中枢型と、両者の混合した混合型が一応区別されていますが、相互の移行もあります。また完全な呼吸停止には至らず、換気が低下するため頻回の覚醒反応が起こる上気道閉塞症候群もあり、食道内圧の測定が有用である場合もあります。
治療は薬物療法のほか、CPAP(Continuous positive air pressure)という陽圧呼吸器具や、歯の噛み合わせを調節して顎を前に引き出す装具が開発されています。


5.反復性過眠症  (Recurrent hypersomnia)
従来我が国では周期性傾眠症(Periodic somnolence,Periodische Schlafsucht)と呼ばれていた疾患です。 多くは青年期に発症し、数日間から2週間程度傾眠状態が続き、この間通常毎日15時間以上昼も夜も眠り続けます。 この間は周囲の人が強く刺激すると一応は目を覚ますのですが、表情は茫乎として簡単な応答はするものの口数が少なく、注意の集中と持続が困難で、周囲への関心が乏しく、記銘力も低下しています。不機嫌で強い眠気を訴え、放置するとすぐに眠り込んでしまいます。自覚的にはぼんやりして周囲に対する現実感が薄れます。 脳波ではびまん性の遅いα波やθ波がしばしば連続して見られます。 この病気の本態としては軽い意識障害が考えられていますが昏睡ほど深いものではなく、食事や排便は自ら行い、失禁することもありません。病相発現の直前に発熱や心身の過労が見られることがしばしばありますが、誘因が必ずしも明確でない場合もあります。傾眠病相の発現頻度は、初めの中は2週間ないし2か月に一度位のことが多いのですが、必ずしも周期的ではなく、経過とともに間隔は延長し、一回の病相の持続が延長する半面、一日の睡眠時間はやや短縮し眠気の強さも軽くなることが多いようです。また経過するうちに特に病相期の後半にかけて無遠慮、易刺激性、衝動的行為、色情的言動、ときに食欲高進、依存性または攻撃性の増加、錯覚、多動・軽躁状態など精神面の抑制力低下が見られることがあります。病相間歇期には全く平常に戻ります。 
亜型として傾眠期に食欲の著しい高進と過食の見られる一群をクライネ・レビン症候群(Kleine-Levin syndrome)と呼んでいます。
病相期が始まると治療は困難なことが多く、むしろ病相を予防するための薬物療法が工夫されています。


6.特発性過眠症  (Idiopathic hypersomnia)
ICSDの特発性過眠症の診断基準は以下のA+B+C+Dが最少限基準とされています。
A. 長時間にわたる睡眠エピソード、過度の眠気、あるいは過度に深い睡眠の訴。
B. 夜間睡眠が長時間に及ぶこと、あるいは頻繁な日中の睡眠エピソードの存在。
C. 発症は徐々で、多くの場合25歳未満で発症する。
D.訴えの持続が少なくとも6カ月以上。

しかしこれでは不明確なので、私は以下のような診断基準を提案しています。

a.夜間睡眠時間は十分なのに昼間1時間以上の睡眠エピソードがしばしば見られる。
b.一日の総睡眠時間が10時間以上。
c.睡眠エピソード後の目覚めがすっきりしない。
d.情動脱力発作がない。

特発性過眠症は頻度が少なく、治療法も十分に研究されていません。 しばしば頭痛、起立性低血圧、レイノー現象、頻脈などの自律神経症状を伴います。通常の精神賦活剤では効果がみられないことが多く、methamphetamineやmodafinilが効果のある場合があります。


7.環境条件に起因する睡眠障害
環境因性睡眠障害、不適切な睡眠衛生、高地不眠症、睡眠不足症候群、しつけ不足睡眠障害、食物アレルギー性不眠、夜間摂食症候群などさまざまなものが記載されています。

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