睡眠について

睡眠周期と生体リズム:本間研一

1. 睡眠周期

 夜間睡眠において、ノンレム睡眠とレム睡眠の出現は一定の順序で繰り返され、その順序を睡眠周期という。通常の睡眠はまずノンレム睡眠から始まり、第1段階から第4段階まで60分から90分かけて進む。引き続きレム睡眠が出現して数分から数十分続く。これが第1睡眠周期で、その後再びノンレム睡眠に移行して、第2睡眠周期が始まる。一晩の睡眠で、睡眠周期は4回から5回繰り返される。睡眠周期を構成するノンレム睡眠とレム睡眠の割合は睡眠の経過によって変化し、睡眠の初期にはノンレム睡眠、とくに徐派睡眠が多くレム睡眠は少ないが、睡眠の後半になるにつれて、徐派睡眠が少なくレム睡眠が多くなる(図1)。

2. 睡眠周期と概日時計

 睡眠周期の成立機序は、完全には理解されていない。そもそも毎晩経験する睡眠についてもそのメカニズムには不明な点が多い。睡眠は内的な要求により出現する生理現象であるが、外的な要因の影響も受ける。内的要因でよく知られているのは24時間周期の生体リズムを駆動する概日時計で、睡眠のタイミングを決めている。その結果、睡眠にも約24時間の周期性が現れる。これを睡眠リズムという。最初に述べた睡眠周期も一種のリズムであり、その出現は概日時計に支配されている。

 睡眠リズムが内因性であることは、時間隔離と呼ばれる実験で明らかにされた。それは、自然光や環境音、社会的接触から遮断された実験室に数週間、単独で滞在した被検者の睡眠リズムなどの解析から得られた。実験室には時刻や時間の経過が判る時計やテレビ、スマートフォーンなどは一切なく、寝たり起きたりのタイミングは被験者自身が決める。この様な特殊な環境下でも、睡眠リズムは一定に維持され、その周期は室内照度が通常の300~500ルックスでは約25時間、10ルックス程度の低照度では多少短く24.5時間程度である。つまり、睡眠リズムは内因性の周期をもつ概日時計に支配されていると考えることができる。同時に測定した体温リズムやホルモンリズムもほぼ同じ周期のリズムを示す。概日時計は環境の明暗サイクルに同調して、その周期を24時間に調節している。これをリズム同調という。概日時計の中枢は、網膜から直接視神経が分布している視床下部視交叉上核にある。

3. 睡眠リズムと末梢時計

 隔離実験では、睡眠リズムと他の生体リズムが乖離する現象が知られており、内的脱同調と呼ばれる。この状態では、睡眠リズムの周期は30時間を越え、25時間周期を維持している体温リズムやホルモンリズムと一致しない。つまり通常の睡眠では、睡眠と体温の低下は同じ時間帯にみられるが、内的脱同調の場合、体温が高い時間帯に睡眠が現れ、低い時間帯に覚醒していることも起る。睡眠リズムは、通常は概日時計の支配下にあるが、何らかの理由によりその支配から逸脱した状態が内的脱同調である。

 ここ20年ほどの研究で、内因性リズムを刻む概日時計は体のあらゆる組織や臓器に存在していることが明らかとなり、これらは総じて末梢時計と呼ばれている。睡眠リズムも末梢時計に制御されていると考えられるが、その局在は不明である。睡眠リズムの末梢時計は、概日時計の他に周期的な運動や食事により調節され、覚醒に関係する中枢神経系が関与していると考えられる。

4. 睡眠周期の構造

 約2時間周期で繰り返される睡眠周期は、睡眠リズムと概日時計が乖離する内的脱同調下ではその構造が変化する。つまり、睡眠と体温リズムの位相が一致するときは、前述の特徴をもつ睡眠周期が現れるが、脱同調しているときは必ずしもそうではなく、第1段階で大量のレム睡眠が出現し、睡眠の後半に少なくなることも起こりうる。つまり、レム睡眠の出現にも約24時間のリズムがあり、体温リズムと同じく概日時計に支配されていて、レム睡眠が最も出現しやすいのは体温リズムが最低値に達するときである。したがって睡眠周期の構造は体温リズムと睡眠の位相関係で決まる。一方、ノンレム睡眠の出現は先行する覚醒の質に影響されるが、その機序には不明な点が多い。つまり、睡眠周期の構造はレム睡眠を支配する概日時計とノンレム睡眠を駆動する末梢時計によって決められている。

5. 睡眠周期と超日リズム(ウルトラディアンリズム)

 睡眠周期は睡眠中でしか観察されないが、眠気は覚醒期間中に約2時間の周期で繰り返され、この他成長ホルモンやプロラクチンの分泌、消化管の蠕動運動などにも2~4時間周期のいわゆる超日リズムが認められる。これら超日リズムの起源については幾つかの仮説があるが、レム睡眠の出現が超日リズムに支配されている可能性がある。哺乳類の行動は基本的に多相性であるが、概日時計に支配されて昼夜変化を形成している。しかし概日時計の中枢を破壊すると昼夜変化は消失し、多相性リズムが明瞭になってくる。レム睡眠脳波は覚醒時脳波と類似しており、夢見など脳活動も盛んであるが、筋弛緩のために行動にはつながらない。レム睡眠を行動超日リズムの睡眠中の表現とみなすこともできる。

図1 ヒプノグラム
図1 ヒプノグラム
通常の夜間睡眠中に見られる睡眠脳波の経過図(ヒプノグラム)。ここでは、5回の睡眠周期がみられる。図中の睡眠段階は、赤がレム睡眠、灰色が第一段階、緑が第2段階、青が徐派睡眠、黒が覚醒を示す。(本間研一、本間さと著「体内時計の研究」、医学書院、2022年より引用)。