睡眠について

睡眠障害とは -睡眠障害の種類-:井上雄一

 睡眠障害は、主に病態生理学的な特徴、症状の特性、症状が出現する部位などを総合して、診断分類がなされている。各種睡眠障害の定義・診断基準を示す睡眠障害国際診断分類は、1990年代以降に3回の改訂が行われており、現在は第三版の小改訂版(text revision)が用いられている。

 睡眠障害は、90以上の疾患単位に分類されているが、大別すると図に示したような8つのカテゴリーに分類されているが、その代表となるのは、1)不眠症、2)睡眠関連呼吸障害群、3)中枢性過眠症群、4)概日リズム睡眠覚醒障害群、5)睡眠随伴症群、6)睡眠関連運動障害群の6つである。

図 睡眠障害国際分類第3版における診断分類
図 睡眠障害国際分類第3版における診断分類

 睡眠障害の中で最も有病率が高く知識が広く普及している不眠症は、かつては、背景要因(精神疾患、身体疾患、薬剤使用など)による分類が行われていたが、背景要因によらず症状特徴や経過、日中の機能への影響に大きな差が無いことから、要因による分類は現在では行われていない。慢性不眠障害は、日中機能障害(倦怠感、疲労、注意力、集中力記憶力の低下など)を伴う慢性の入眠困難(寝つきの悪さ)または睡眠維持障害(中途覚醒は早朝覚醒)を指す。短期不眠障害は、罹病期間3か月以内のものと定義されているが、どのようなケースが慢性化するのかは、未だ明らかにされていない。

 睡眠関連呼吸障害群では、睡眠中の上気道狭窄に伴って常習性いびき・呼吸停止を呈する閉塞性睡眠時無呼吸が代表的だが、呼吸運動の減弱に伴って呼吸の減少・停止を示す中枢性睡眠時無呼吸もこの群に含まれる。さらに中枢性無呼吸の中には、心不全や脳血管障害に基づいて呼吸量の漸減・漸増を繰り返すチェーンストークス呼吸も含まれている。睡眠時無呼吸の診断においては、成人と小児で異なる基準が設定されている。

 ナルコレプシーや特発性過眠症などの中枢性過眠症は、夜間の寝不足や他の睡眠障害や体内時計リズムの異常が無いのに、日中眠ってはいけない時間帯に目を覚ましていることができず、耐え難い眠りの欲求のために時に居眠りをしてしまうものを指す。総体的に若年期に発症するものが多く、この年代での仕事や学業の能率低下、居眠り事故の原因になりうることが問題視されている。

 個人の体内時計のリズム(概日リズム)が24時間の社会活動を行う上で必要となる睡眠・覚醒時間帯とずれが生じるものを概日リズム睡眠覚醒障害群と総称する。夜勤を含んだ交代制勤務などの外的要因によって生じるものと、個人の素因に基づいて生じるものがあり、後者には極端な夜型傾向、極端な朝型傾向、睡眠・覚醒の周期が不安定なもの、などがある。概日リズム睡眠覚醒障害群に共通するのは、夜間の入眠もしくは維持の困難と日中の眠気であり、健康被害が生じやすく、社会生活に支障をきたすことも少なくない。

 睡眠時随伴症群は、入眠過程、睡眠中、睡眠から覚醒に移行する際に生じる複雑な運動、行動、感情、知覚、夢などを指し、多くは意識の状態が不安定なために起こるもので、行動・運動を制御できないために受傷の危険性を伴う。覚醒障害と呼ばれるノンレム睡眠中の行動は、脳が部分的に睡眠―部分的に活動しているために生じるといわれている。一方レム睡眠行動障害では、通常抑えられるはずのレム睡眠中の筋活動が抑えられず、夢の内容に応じて行動してしまう。

 睡眠時随伴症での運動が複雑なものが多いのに対し、睡眠関連運動障害群での運動は比較的単純かつ常同的なもので、入眠ならびに睡眠維持を妨害することがある。例外となるむずむず脚症候群は、覚醒状態で下肢の不快感を緩和するために歩行や非常同的な運動を行う。その他は、睡眠中に運動が繰り返し起こるものが大半だが、周期性四肢運動障害では、安静覚醒時にも生じることがある。

 これらの睡眠障害は、いずれも心身の健康に悪影響を及ぼし、社会生活機能を損なう可能性があるため、治療の対象になることが明らかにされている。