睡眠について

睡眠薬の安全で安心な使用法について:三島和夫

 不眠症(不眠障害)はもっともよく見られる睡眠障害の一つで、その治療薬である睡眠薬はどの診療科でもしばしば処方される。国内では約500万人の患者さんが医療機関から処方された睡眠薬を服用している。睡眠薬は不眠症の治療に役立つ薬物だが、何種類もの睡眠薬の多剤併用や不眠症状改善後も漫然と長期処方するなどの不適切な使い方によって副作用が出現することがあり問題となっている。そのため、睡眠薬を使った薬物療法を行う際には、治療効果と同時に、安全性にも十分に配慮し、症状改善後には減量や休薬も見据えて計画的に治療計画を立てることが推奨されている。

 睡眠薬にはベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(別名、Z-drugs)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬の4つのタイプがある。不眠症の治療に関する国内外のガイドライン(標準的な治療の手順書)では、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬の中から、患者さんの不眠症状のタイプ、年齢、合併症の有無、その他の服用薬との組み合わせ(相互作用)などを勘案して適切な治療薬を選択するように推奨されている。ベンゾジアゼピン系睡眠薬が第一選択薬から外されたのは、他のタイプの睡眠薬より副作用のリスクが高いためである。特に高齢者では、認知機能低下、健忘、めまいやふらつきによる転倒や骨折などの副作用があるため慎重に服用する必要がある。また長期間服用することで効果が弱まったり、急に服用を中止すると不眠の悪化、不安症状、動悸や発汗などの離脱症状が出現したりすることがあり注意が必要である。

 日本人は睡眠薬に関する不安がとても強い。一般の方を対象にした調査でも、「不安を感じずに服用できる期間」という質問に対する回答でも「1週間以内」が半数を占めるなど長期服用に対する拒否反応が強い。睡眠薬の長期服用に対する不安から、指示通りに服用しない、自分の判断で断薬するなど服薬法を順守しない患者さんも少なくない。その結果、不眠症状が悪化したり離脱症状に苦しむことも少なくない。このような事態を防ぐためにも主治医と患者の間で治療のゴールについて話し合うことが大切とされている。不眠症が治ったと判断するには、不眠症状だけではなく、日中症状(眠気や疲れやすさ、イライラや不安など)も改善していることが必要である。昼夜の症状がともに改善したら、睡眠薬の減量や休薬を目指すのか、もしくは安全性の高い睡眠薬を長めに服用するのか、主治医と患者が相談して決定することが望ましい。これは共有意思決定(Shared decision making)と呼ばれ、安全で安心な治療を行うために必要な治療契約とされる。

 日本睡眠学会では睡眠薬を安全に活用していただくために、医師と患者さん向けに「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を作成し、ホームページで公開している。本ガイドラインでは睡眠薬に関する代表的な40の臨床的な疑問(クリニカルクエスチョン)を設定し、科学的エビデンスに基づき回答している。一般の方にも理解やすい解説を載せているので参考にしていただければ幸いである。

一般社団法人 日本睡眠学会ホームページ
「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」
https://jssr.jp/guideline