睡眠について
不眠と生活習慣病:陳和夫
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睡眠と健康について、多くの注目を集め、睡眠の質の低下の原因として最も多く述べられている病態の一つとして、不眠がある。不眠と身体症状について、生活習慣病を含む身体疾患についての報告も多いが、報告ごとに不眠症の診断が一定でないことも多く、一定の見解を述べることは困難であるとの考えも根強い1)。その要因として、例えば、生活習慣病の一つである慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive sleep apnea: COPD)では呼吸困難などによって不眠を起こすことがある。COPDの予後悪化に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome: OSAS)が関与することは明らかになっているが2)、不眠自体がどのような影響を与えるかは明らかになっていない。不眠になると睡眠時間の短縮を見ることが多いが、不眠による短時間睡眠とその他の要因による睡眠時間の短縮の相違も明らかでない。本稿では生活習慣病との関連が比較的に認められている短時間睡眠と睡眠時無呼吸について記し、不眠との関連も述べたい。
- 1. 短時間睡眠
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短時間睡眠(睡眠時間が6時間以下)になると、一般的な健康、心の健康が損なわれ、心臓血管病、代謝障害が増加し、免疫機能、認知力、パフォーマンスの低下、死亡率も増加するとされている3)。しかし、このような報告は主観的睡眠時間(subjective sleep duration: SSD)によるものが多く、アクチグラフなどによる客観的な睡眠時間(objective sleep duration: OSD)によるものは少なく、最近の本邦の報告からはOSDは高血圧、糖尿病との関連はなかったとの報告が見られている4)。また、一般的にはSSD>OSDと考えられているが、不眠症患者ではSSD≦OSDであることが多い5)。ほとんどが閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)である睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing: SDB)患者群においては重症度が増すにつれ、SSD-OSDの差が大きくなっている6)。最近の本邦からの報告ではOSDが6.98時間(女性:6.80時間、男性:7.36時間)でOSD=SSDとなっており、OSDが6.98時間(女性:6.80時間、男性:7.36時間)より長い場合、推定されるSSDはOSDよりも短くなるが、ばらつきは大きい6)。SSD-OSDの差はmisperception(睡眠状態誤認)と呼ばれることがあるが、misperceptionと生活習慣病との関連は未だ明らかでないことが多い。
- 2. 不眠と睡眠時無呼吸
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睡眠時無呼吸には無呼吸中に呼吸努力が見られ、呼吸再開時にいびきが聞かれることが多い閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)、呼吸努力が認められない中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea: CSA)があるが、代表的なCSAの1種類であるチェーンストークス呼吸を示す心不全患者においては不眠症状が多いとされる2)。OSAの一般的な症状として、日中の過度の眠気はよく知られているが、特に軽中等症では不眠症状を呈することも多い。米国からの報告によると、OSAの頻度は年々増加し、不眠症と同程度になっていると報告されている7)。不眠症とOSAは頻度が高いので、当然、合併することも多い。OSAと不眠症に関連する症状と臨床学的因子は相互関連していることが多い(図1)8)。OSAは重症度が増すにつれて、高血圧、糖尿病などの生活習慣病要因になることが明らかになっているので、不眠症と生活習慣病を考える時にSDB特にOSAの除外は重要である。また、OSAの3大要素は肥満・加齢・男性であり、高齢者では頻度が増す(図2)9)ので、高齢者の不眠症に対してのSDBの除外は重要である。
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図1. 閉塞性睡眠時無呼吸と不眠に関連する症状と臨床学的因子の相互関連
(文献8より引用改変) -
- 図2. 年齢、肥満度ごとの中等症以上の睡眠時無呼吸の頻度(文献9より引用)
- 3. 不眠と生活習慣病
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膝関節痛や腰痛でも短時間睡眠や睡眠の質の悪化が報告されている10)。上記に記したように短時間睡眠の原因としての不眠、睡眠時無呼吸に伴った不眠など、不眠は多くの病態で出現する。睡眠時無呼吸や短時間睡眠など生活習慣病との関連が深いと考えられている病態と慢性不眠障害(不眠症)の症状は類似し、合併している事も多いので、SDBなどを除外し、睡眠障害とそれに関連した日中の症状は、少なくとも週3回且つ少なくとも3か月間認められるという正確な診断を基とした慢性不眠障害(不眠症)と生活習慣病との知見が望まれる。
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文献
- 1) Benz F, Meneo D, Baglioni C, Hertenstein E. Insomnia symptoms as risk factor for somatic disorders: An umbrella review of systematic reviews and meta-analyses. J Sleep Res. 2023 Dec;32(6):e13984. doi: 10.1111/jsr.13984.
- 2) American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders. 3ed ed, text revision. Diren, IL: American Academy od Sleep Medicine;2003.
- 3) Consensus Conference Panel; Watson NF, Badr MS, Belenky G, et al. Joint Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society on the Recommended Amount of Sleep for a Healthy Adult: Methodology and Discussion. Sleep. 2015 Aug 1;38(8):1161-83. doi: 10.5665/sleep.4886.
- 4) Matsumoto T, Murase K, Tabara Y, et al. Impact of sleep characteristics and obesity on diabetes and hypertension across genders and menopausal status: the Nagahama study. Sleep. 2018 Jul 1;41(7). doi: 10.1093/sleep/zsy071.
- 5) Stephan AM, Siclari F. Reconsidering sleep perception in insomnia: from misperception to mismeasurement. J Sleep Res. 2023 Dec;32(6):e14028. doi: 10.1111/jsr.14028.
- 6) Takahashi N, Matsumoto T, Nakatsuka Y, et al. Differences between subjective and objective sleep duration according to actual sleep duration and sleep-disordered breathing: the Nagahama Study. J Clin Sleep Med. 2022 Mar 1;18(3):851-859. doi: 10.5664/jcsm.9732.
- 7) Namen AM, Chatterjee A, Huang KE, et al. Recognition of Sleep Apnea Is Increasing. Analysis of Trends in Two Large, Representative Databases of Outpatient Practice. Ann Am Thorac Soc. 2016 Nov;13(11):2027-2034. doi: 10.1513/AnnalsATS.201603-152OC.
- 8) Luyster FS, Buysse DJ, Strollo PJ Jr. Comorbid insomnia and obstructive sleep apnea: challenges for clinical practice and research. J Clin Sleep Med. 2010 Apr 15;6(2):196-204.
- 9) Matsumoto T, Murase K, Tabara Y, et al. Sleep disordered breathing and metabolic comorbidities across sex and menopausal status in East Asians: the Nagahama Study. Eur Respir J. 2020 Aug 20;56(2):1902251. doi: 10.1183/13993003.02251-2019.
- 10) Murase K, Tabara Y, Ito H, et al. Knee Pain and Low Back Pain Additively Disturb Sleep in the General Population: A Cross-Sectional Analysis of the Nagahama Study. PLoS One. 2015 Oct 7;10(10):e0140058. doi: 10.1371/journal.pone.0140058.